春のハンノキ、シラカバ、夏のカモガヤ、オオアワガエリと秋のヨモギが代表的な花粉症です。毎年同時期に連続するくしゃみ、鼻水、鼻づまり、眼や鼻や喉の痒み、涙が止まらない等の症状があれば花粉症かも知れません。風邪なら1週間程で治癒しますが、長引くときは花粉症や他の疾患も疑われます。花粉症治療の基本は薬物、免疫療法、手術です。症状が悪化した後では薬が効きづらくなるので、症状が出る前に薬の服用を始めることが大切です。眠気や倦怠(けんたい)感の少ない薬もあります。花粉飛散の少ない年は発症しない人もいますが、花粉症は自然治癒がほとんどありません。現在のところアレルギーの原因物質を3年から5年ほど定期的に注射する特異的免疫療法が唯一花粉症の治癒の可能性がある治療法です。また高周波で鼻粘膜を手術するアルゴンプラズマ凝固療法はほとんど無痛で短時間に終了します。効果は長期間持続しかつ経済的にも良い治療法です。日常生活での注意は、窓や戸を締め、外に干した洗濯物は花粉を払う。外出時はマスク、メガネ、つば付き帽子、ツルツルした素材のコートを着用し、帰宅時は服を着替え、洗顔、うがい、鼻をかむ。食生活ではファーストフードや肉は控え、野菜、果物、海藻、魚を積極的に摂ります。風邪、水泳、旅行、寝不足、過労や過度の精神的ストレスは症状を悪化させるので避けましょう。

アレルギー性鼻炎の原因と対策の詳細
はじめに
 アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどアレルギー疾患に罹っている人はかなりの増加傾向にあります。日本人の約30%は、アレルギー性鼻炎であるとも言われております。特に、小児において増加が著しい。その増加の原因は、気密性の高い室内と冷暖房器具の整った住環境、動物性脂肪やタンパク質の過剰摂取など欧米型食生活、両親の体質(両親にアレルギーがあると子供は2倍アレルギーになりやすい)、大気汚染、社会環境や構造の変化による精神的ストレスによることが考えられております。
アレルギー性鼻炎はどのようにして発症するか?
 アレルギー体質(両親から遺伝的に受け継ぐ体質で抗原に敏感な体質)と生活環境や生活態度が合わさって発症します。従って遺伝的にアレルギー体質を持っていても発症するわけではありません。アレルギー体質の人は全人口の3分の1いると言われております。アレルギー体質の人がアレルギーを引き起こす原因物質(抗原またはアレルゲンと言います。多くは花粉、ダニなどです。)を長期間繰り返し吸い込むと体の中に抗体(IgE抗体)がつくられ、この抗体が鼻の粘膜の肥満細胞と言うアレルギー反応を生じる細胞に付着し感作と言うアレルギー発症の準備状態が完成します。この様に感作している人がアレルゲンを吸い込むとアレルギー症状が出ることとなります。
アレルギー性鼻炎の原因(抗原)とは?
 ハウスダスト(家のほこりの中には植物、衣服の断片、食物片、細菌、カビなど多種類の物が含まれていますが、主要な物はヒョウヒダニです)、ダニ(肉眼では見えず、顕微鏡で見える大きさです。日本の優占種はヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニ)、真菌(アルテルナリア、カンジダ、アスペルギルス、ペニシリウム、クラドスポリウム)、ペットのフケがアレルギーの原因となる場合では1年じゅう症状がありますので通年性アレルギー性鼻炎と呼ばれています。アレルギーの原因が花粉の場合を花粉症と言い花粉が飛ぶ季節のみ症状が出るので季節性アレルギー性鼻炎と呼ばれています。花粉症がアレルギーの原因となる植物は、60種類ほど知られておりますが札幌では春のカバノキ科(ハンノキ、シラカンバ)、夏のイネ科(カモガヤ、オオアワガエリ)と秋のキク科(ヨモギ)などが代表的なものです。勿論、同時にいくつものアレルゲンを持っている人もたくさんおります。なお道南ではスギ花粉症がアレルギー性鼻炎の約15%を占めますが道央以北ではスギの木がほとんど生育しておらず問題とはなりません。アレルギーに似た症状が出現する好酸球性非アレルギー性鼻炎と血管運動性鼻炎と言う鼻炎も少なからずありますので耳鼻科専門医の診断がひつようです。
アレルギー鼻炎とくに花粉症の多彩な症状
 花粉症の症状は風邪と良く似ています。しかし、毎年ほぼ同じ時期に次ぎの様な症状があれば、花粉症かも知れません。普通の風邪なら1週間で治癒しますが、長引くときは花粉症や他の疾患も疑われますので自己診断で市販の薬を服用せず専門医の受診を勧めます。
アレルギー性鼻炎の主な鼻症状として、5〜6回ときには10回以上連続するくしゃみ、サラサラした鼻水(風邪の場合は最初はサラサラした鼻水で次第にドロッとした鼻汁にかわる)、鼻つまり(頑固なつまり、ひどい場合は口で呼吸するようになり、よく眠れない、のどが渇くなどの症状が現れることもある)、
その他鼻かゆみ、鼻血、鼻の入り口のただれ、嗅覚障害も伴うこともあります。眼症状のとしてかゆみ、焼けるような感じ、涙がとまらない、白目の充血、瞼の腫れ(風邪の場合は目の症状はまれ)、のど症状としてかゆみ、せき、胃腸症状として胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、全身症状として倦怠感、頭痛、集中力減退、不眠、熱っぽい、その他には鼻根部皮膚の腫脹(小児)、目の下のクマ(小児)、味覚障害、皮膚のかゆみ、皮膚の炎症、肌荒れなど多彩な症状が花粉症では出現します。
診断はどのようにするか?
 鼻汁細胞診(好酸球の有無を調べ症状がアレルギーによるものか別の原因か調べる検査)、IgE検査(アレルギー体質を調べる血液検査)、皮膚反応(アレルギー原因物質を調べるための皮膚検査。)、特異的IgE抗体検査(アレルギー原因物質を調べるための血液検査。)、鼻粘膜誘発反応(抗原の確認検査)、X線検査などを組み合わせて行います。
アレルギー鼻炎の増悪環境因子
 アレルギー鼻炎の場合次の様な種々の要因で症状の悪化がみられますので気をつける事も大切です。
・風邪(大部分はウイルス)・気温の変化(冷たい空気、乾燥した空気)・水泳(鼻に水が入りやすく、真水又は塩素消毒水は鼻粘膜障害性がある)・旅行(乗り物内や地域的な空気汚染、気候の変化、移動に伴うストレス、飛行機では気圧の変化)・大気汚染(香料、スプレー、タバコの煙、SO2、NO2、車粉など刺激性ガス、職業性の多種の浮遊塵)、 その他自分自身の内部要因として寝不足、過労や過度の精神的ストレスで増悪します。従って避けられる事が可能なものはさけ、だめなときには早急に薬を服用した方がよいし事前に予防的に服薬することも必要です。
室内ダニの除去も大切(特に重複抗原の人)
   室内の清掃を排気循環式の掃除機を使いこまめに掃除しましょう(週に2回以上掃除します。ジュータン、ソファー、食卓イス、ぬいぐるみ、布団の表面を特に行う)。布製のソファー、カーペット、畳は出来るだけやめます(ダニが繁殖しやすい)。ベッドのマット、布団、枕にダニを通さぬカバーをかけましょう。ぬいぐるみ人形のベッド(ダニが繁殖)への持ち込み、カーテン、織物の壁掛けをやめます。こまめに洗濯しましょう。部屋を湿度約50%、温度を20〜25℃にします(高温多湿でダニが繁殖しやすい、乾燥しすぎるとかぜにかかりやすく咽頭炎にもなります)。出来れば空気清浄機を使います。掃除のときは必ずマスクをします。
ペット(特にネコ)は飼わないように
 ペットのフケや糞が抗原となりペットアレルギーが発症することやペットの餌・フケ・糞がダニの餌となりダニが繁殖しダニアレルギーの誘因となるためできるならペットは飼育をしないことが大切です。飼わざるを得ない場合は屋外で飼い、寝室に入れない、ペットとペットの飼育環境を清潔に保つ、床のカーペットを止めフローリングにする、通気をよくし掃除を励行することに注意します。
まず花粉の回避
カモガヤやヨモギなどの雑草が原因植物の場合は刈り取りましょう。また現実的には無理なことが多いがカモガヤやヨモギなどでは花粉飛散範囲は限られているので原因植物の繁殖地からある程度離れれば、花粉の暴露を防ぐことが出来ます。可能であれば飛散の多いときは外出を控えます(1日のうち飛散の多い時間帯の外出もなるべく控える)。花粉飛散期は窓、戸を締め花粉の室内への侵入を防止します。また布団や洗濯物を外に干した場合よく叩き花粉を落とすか電気掃除機で花粉を吸い取ってから室内にいれます(花粉が付着し、寝ている間の症状悪化につながることがあります。)。外出時の服装としては飛散の多いときは外出時花粉症用のマスク(目の細かい特殊なフィルターを持つ)、メガネ(ゴーグルのようにサイドカバーが付いていると効果的)、つば付き帽子、スカーフの着用を心がけましょう。ウールなどのコートは避け上には長めのツルツルした素材のコートを着ることを勧めます。帰宅したとき家に入る前には服に付いた花粉を払ってはいりましょう。帰宅したとき服を着替えます。帰宅したら、洗顔、うがいをし、鼻をかみます。なお花粉が良く飛ぶ日はカラリと晴れた暖かい日・風邪の強い日・雨が降った後の良く晴れた日はとくに要注意日です。雨の日は花粉は飛びません。
薬物療法
いろいろなタイプの薬がありその人合った薬を服用するのが一番です。現在では眠気も少なく仕事や勉強とか運転にさえ支障のない薬も開発されております。症状が悪化すると薬が効きずらくなりますので花粉症の治療では症状が出る2週間位前から症状を抑える薬(抗アレルギー薬)の服用を始め治療を開始するのが最も効果的です。しかし、花粉飛散量もその年によって異なりまた個人によりいつから症状が出るかの予測がむずかしので、鼻・眼の掻痒感やくしゃみが少しでも出たらすぐ治療するのが現実的にはベストです。あらかじめ症状が出る前に受診して薬を処方して貰って下さい。花粉飛散期間は継続して服用をつづけます。これにより症状の出現を遅らせることが出来、飛散量の多い時期の症状を軽くでき、併用薬の量や使用回数を少なく出来ます。
特異的免疫療法
 その人のアレルギーの原因となっている抗原エキスを少量ずつ増やしながら注射していく方法でアレルギーの原因に対する反応を弱めてゆく方法です。3年から5年という長期間の定期的注射が必要ですが、アレルギーの種々の治療の中で唯一アレルギーを治すことが出来る方法です。約70%の人に有効で約25%の人が治癒すると考えられています。この治療法は効果発現まで長期間かかるため途中で中断すると無駄になります。また国産の治療可能な注射エキスは限られた数種しかないのが現状です。忙しい現代社会においてこの治療を受けられる人は徐々に少なくなっています。
手術療法
外来通院で可能な手術法が開発され安定した改善効果が出ております。長期間症状を抑制でき(1〜2年以上)ます。鼻粘膜の表面や粘膜内を高周波やレーザーを使用してほとんど無痛に短時間で終了します。ただし鼻の中が構造上入院での手術でなければ改善出来ない人もおります。アレルギーの原因植物が数種類あり症状が長期間続く人や中等度以上の症状の人には手術をお勧めします。薬の服用を望まない人や妊娠を希望する人にも勧められます。
妊娠中はどうするか?
妊娠することで鼻炎の症状が重くなることがあります。しかし、胎児に与える影響を考え、器官形成期の妊娠4カ月の半ばまでは、原則として薬物を用いることは避けた方が安全と言われております。人で胎児の安全性について試験された薬はないからです。しかし、いくつかの薬は以前から使用されており多数例で有害だとの証明はありません。・特異的免疫療法(催奇形性は認められておりません。)、・局所ステロイド点鼻薬、・抗ヒスタミン(4カ月の半ばを過ぎてから使用。アタラックス、タベジール、ポララミンが胎児への毒性は報告されておらず使用可能)、・インタール点鼻(化学伝達物質の遊離抑制剤)
などは使用可能です。薬を使わない試みるべき安全な方法としては、入浴をしたり、むしタオルやマスクの使用により症状を軽くできることもあります。また効果持続は短いが温熱療法(やや高温の水蒸気を鼻から吸入する器具があります)も安全です。アレルギー性鼻炎があり妊娠により重くなる人は妊娠前に手術をして改善しておくのが良いと思われます。
口腔アレルギー症候群にも注意
ある特定の果実や野菜を食べると多くは唇、口、のどなどにアレルギー反応が起きることがあり口腔アレルギー症候群(Oral allergy syndrome;OAS)と呼ばれております。症状としては口やのどの粘膜や唇のかゆみ、ぴりぴり感およびはれが多く見られ、下痢、腹痛、喉頭浮腫、鼻炎、結膜炎、蕁麻疹、湿疹様の皮膚症状、喘息症状やときにショックが出現する事もあります。この様な症状は原因食物を食べた後15分以内に出現します。花粉症の人に多くみられ、シラカバ花粉症の人では40〜50%、その他の花粉症の人では5〜7%を占めます。花粉症の種類によっては原因食物にも違いがあります。シラカバ花粉症では、リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、プラム、イチゴ、キウイ、メロン、カキ、スイカ、ブドウが原因食物として多く、イネ科花粉症ではトマト、メロン、スイカ、オレンジが多く、ヨモギ花粉症ではメロン、リンゴ、スイカ、セロリが多く認められます。
加熱した果実・野菜、缶詰、市販の果汁ジュースは通常アレルギーは起こりません。原因食物を食べ続けると症状がどんどん悪化する可能性があります。発症を完治させる治療法はまだ確立していないので原因食物は摂取を避けるようにすることが大切です。実際どうしても避けられない場合には抗アレルギー剤を事前に服用することが勧められる。
またラテックスアレルギー患者さんにアボガド、バナナ、クリ、マスクメロンで口腔アレルギー症候群が高頻度に見られます。

シラカバ。 シラカバ花粉。
カモガヤの群生。札幌駅北口近くに空き地(H.18.6.18撮影)。 カモガヤ花粉(H.18.6.18撮影)。
 
カモガヤ(H.18.6.18撮影)。  
オオアワガエリ花粉(H.18.6.18撮影)。 オオアワガエリの群生(H.18.6.18撮影)。
ヨモギの花(H.18.8.14撮影)。ヨモギを食べても花粉症にはなりません。 ヨモギの花(H.18.8.14撮影)。

 

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